農林試験場探訪

平成16年11月6日

「ここの試験場でやっている一番の目玉はなんですか。たとえば日本でここだけしかやっていない研究とか、その成果など」会場にいるスタッフを捕まえて問いかけた。
 意外な問いかけにすぐには返事が返ってこなかった。「場長か次長を探してきますから」とそのスタッフは会場へ探しに行った。

長崎県総合農林試験場は自宅から歩いて30分もかからないところにある。
 
役所の名称からしてやっている仕事の大体の想像はつく。しかし、具体的なこととなるとまったく分からない。一度は訪ねてみたいと思っていた試験場だった。

11月6日農林試験場が一般に公開されることを知った。


会場風景

手作りの案内の看板は、大きな楠木にガムテープで貼り付けてあった。経費節減らしい。
テントの受付で会場案内資料を貰う。

今回が初めてではなく何年も前から開放されていたという。以前は農業祭という形で農業生産者を対象にした行事だったらしい。それが消費者である一般市民に農業生産の実情や試験場のPRをして親しんでもらおうと目線を変えたお祭りになっているようだ。

催しは、相談コーナー、試食コーナー、プレゼント・販売コーナー、体験コーナーと盛り沢山である。

応対に足を運んでくれたのは次長さんだった。互いに簡単な挨拶を交わしたあと「試験場の概要パンフレット持っていますか」と次長は尋ねた。持っていないというと受付まで取りに行ってくれた。

概要には、機構組織、試験研究の目標、業務と研究内容と分類された説明がある。

さっそく、さっきスタッフに問いかけたのと同じ質問をした。

1、     ばれいしょの新品種開発
次長さんの説明
長崎県は北海道に次ぐ全国第2位のばれいしょの生産地で新品種の開発です。
病虫害に強い抵抗性品種として去年「アイユタカ」を育て、来年から生産にかかります。
「西海31号」は表面だけではなく中までピンク色のジャガイモで、いま研究中です。
こんのジャガイモは、ガンにかかりにくい、インフルエンザにかかりにくい、健康食品です。
また澱粉含有量がほかのジャガイモより3%位高いので、ポテトチップスやフライドポテトに適しています。
※写
真のピンク色のポテトチップスは「西海31号」
2、    トマト黄化葉巻病の防除技術確立

次長さんの説明
長崎県をはじめとし、九州各地でTYLCVというウイルスがトマトに感染し、問題となっています。
このウイルスは、シルバーリーフコナジラミという体長2mm程の害虫によって次々に広がっています。この病気に罹ったらトマトは実がなりません。
そこで、発生生態の解明、迅速検定技術の確立、TYLCVの生態解明、媒介昆虫の防除対策などの研究をしています。
3、    諫早湾干拓地における営農技術開発と実証
次長さんの説明
平成12年度から中央干拓地で試験研究を行ない、緑肥作物や麦類は除塩処理後1年目から栽培可能になり、タマネギ、バレイショ、ニンジンなどは栽培開始2年目で既耕地と同じ水準の収量、品質が得られる事が確認できました。
これからは排水・除塩対策、適応作物の選定など、まだまだ多くの問題に取り組まなければなりません。

※写真は、干拓地で栽培したメロン(干拓の銘を刻んである)
干拓のコーナーでは、潟の土を粘土細工用に子供達に配っていた。埋立地に生えているヨシを使って日除けのヨシズ編みを楽しむ子供もいた。

以上3ッが目玉になると言うことだった。 

次長さんと別れたあと会場を回りながら研究員に質問してみた。

「自分の好きな研究をし、娑婆の雑音から離れ研究に没頭できるから羨ましい職業ですね」「それはまったく違います」と意外な回答だった。

 この方の話によると、研究テーマは農林生産者の要望で決定され、自分では選択できない。研究は3年以内に成果を発表しなければならない。成果次第では研究を打ち切られることがある。など厳しい内情を話してくれた。行政改革の波はここにも押し寄せているなぁという感じである。

このあと農林資料館、林業部のキノココーナーなどを見て回った。

キノココーナー

キノコの研究は林業部の範疇であった。
クヌギの原木を使って栽培するから林業部に属するのだと理解ができた。
しかし、いま開発しているのは原木を使わないで菌床というオカラをボンドで固めたようなもので栽培されている。
原木栽培の椎茸とは違って、ご覧のとおり密生しているのにビックリした。

エリンギ

キノコというより磁器のオブジェのような白さである。
つい最近食卓に出るようになったキノコで、原産はヨーロッパで日本には野生のものは存在しないという。
癖のない風味と歯応えのある食感で人気上昇のキノコらしい。
フーイークー

フーイークーとは中国名の呼び名で、和名はウスヒラタケという。
試験栽培に使っている菌は中国福建省と長崎県との技術交流によって長崎県に分譲されたもので、長崎県北部に多いマテバシイを使って栽培試験を試みているそうである。
鍋物や炒め物など中華料理に適したキノコという。

※キノコの土台は菌床
農林資料館

ロータリ式動力耕転機
大正9年ごろスイスから輸入されたものの一台。大正13年に当試験場が当時の価格1600円で購入したもの。
特色は、耕転部がロータリ式で当時では珍しく、後に国産のロータリ式を生む契機となった。
(説明板より転記)
昭和20年の終戦までは牛馬と人力による農作業だと思い込んでいたので、80年前に農業の機械化に取り組んでいたとは意外だった。
これも資料館に展示してあった石油発動機。
これは昭和5年から20年ごろまで使われていたヤンマー石油発動機。
ハンドルを廻し、「スットン、スットン、・・・・」とだんだんと音が早くなって、ついに自力で回転する響きが甦ってきませんか?
懐かしいですね。
精米体験コーナー

このコーナーの立て札を見て玄米から精米するだけではないかと通り過ぎようとした。
それにしては行列が長く人気がある。よく見ると稲束を1束ずつもって大人も子供も並んで待っている。
行列の一人に尋ねてみた。脱穀から籾摺り精米までの作業を体験できるコーナーだということであった。人気の理由が理解できる。
最後の行程、精米機から出てくる米は一膳分の量である。この米はお土産として持ち帰ることが出来るとのことであった。
試食コーナー

時間をずらして、米粉パン、メロン、キノコ、馬鈴薯蒸し芋、西海31号チップスなどの試食が行なわれていた。指定された時間に行ってみるともう長い行列が出来ている。早い人は10分も前から並ぶという。
数量に制限ありで、行列の半分ぐらいで、あとは残念でしたでもらえない。
ちなみに私も3箇所並んでみたがすべて残念組で終ってしまった。
試食をあてにして弁当なしで出かけたが腹が減って仕方がない。午後から隣でやっている県立農業大学校の学園祭へ切り替え、即席食堂で200円のカレーを食べた。
農林資料館で見つけた「米価年代暦」の中から年号の変り目の価格をメモしてきた。
明治元年   1円69銭(60kg当たり以下同じ)
大正元年   8円32銭
昭和元年  12円70銭
昭和20年 60円00銭(終戦の年)
平成元年   16,743円 
平成14年  14,535円
戦時中の食料難時代、高度成長時代、農業自由化の時代突入と価格が物語っている。

大正13年に1600円で購入したローターり式耕転機をいまの物価水準に換算してみると180万円になる。

秋晴れの下、農林試験場探訪は新しい発見をした気分になって楽しい半日であった。

唐突な質問をして驚かせたスタッフの方ごめんなさい。

トップへ戻る