みちのく紅葉の旅(4)

☆ 足跡を残した山(2)

 
白神山地

日本最大のブナ林が広がる白神山地は、青森県と秋田県にまたがる東西約40キロ、南北約20キロといわれている。山地の面積はおおよそ13万ヘクタール。そのうち原生的なブナ林で占められている16971ヘクタールの区域が世界遺産に登録されていると聞いている。

ブナの森を「緑のダム」と呼ぶのは、落葉のジュウタンが雨水を吸い込む保水力の大きさを表現したもののようだ。

今回訪れたのは、青森県鯵ヶ沢町の『ミニ白神』だった。

町営の散策コースは入口に立派な建物があり、大人・高校生300円払うとゲートをとおりコースに入れる。


入園してから振り返って写した管理棟

綺麗に整備されたコースは道幅も広く、山路の感じではなく遊歩道を歩いているようだ。300mほどでミズナラの大木に出会い、さらに進むとブナの林になる。進む程に樹は大きくなった。コース脇に聴診器が数個、鳥の巣箱のような箱に入れてあり、ブナの息遣いを聴いてくださいという趣向である。


ブナの林

聴診器でブナの息遣いを聴く

聴診器なるものを付けて聴くのは初めてのこと、樹の根元に押し当て耳を澄まして聴いたが残念ながら水を吸い上げる音は聞き取れなかった。聞き取れるという人、分からないという人それぞれ半々ぐらいだった。

その近くに「熊の爪あと」と書いた矢印の札を見付けた。左側の大きなブナにその爪跡はあった。大人の頭ぐらいの高さの位置である。この跡形から想像してかなり大きな熊ではないかと思うと今にも何処からか現れそうな気がして怖くなった。


ブナの巨木についているクマの爪のあと

幹に付いた傷跡で思い出した。『ナタ目』という目印の話である。

ナタ目とは、ブナの幹に自分の名前を刻むことで道に迷わぬためだとか、クマ猟の記念だとか言われている。しかし、マタギは目印なしでも白神の隅々まで知っている。ナタ目はキノコ採りや山菜採りの人が付けた印だ、と何処かの雑誌で読んだ記憶がある。

外回りコース2.2kmを1時間で回った。黄葉はほとんどなかった。

駐車場に戻り、大きな案内板を見た。バスから降りたときはこの大きな案内板には気付かずに通り過ぎていた。

案内板には、白神山地の全容の地図にミニ白神山地の現在地が印してある。

「ああ!こりゃなんだ」

いま一周して来たコースは世界遺産に登録された区域の一部分と思い込んでいた。

ところがそうではなかった。登録エリアの北端に辿り着くには、ここからまだ20kmも西南方向に行かなければならないことが分かった。


あとで気付いた案内板

なるほど、世界遺産の区域ならば遊歩道を整備したり、途中に休憩の東屋を建てたりはしないはずだ。何となくありがたみが薄くなった。

確かな情報ではないが、青森県側は世界遺産区域の入山は禁止で秋田県側は入山できると聞いたことがある。もしそうであれば秋田県側から本物の白神を見に出直したいと思った。

ブナの実を拾って戻って来た人がいた。バスの昇降口で迎えてくれたバスガイドさんはその団栗のような実を見て、

「それはブナの実とは違いますよ」

このツアーのお客の中にはブナには縁が薄い人たちばかりらしく、その言葉にびっくりしている。もちろん私もブナの実なんて見たことはない。

「皆さんご存知だとばかり思っていました。じゃ、拾いに行ってきましょう」、と団栗を拾ってきた人たちと一緒にまた山の中に出かけて行った。

ほどなくしてブナの実を大事そうに手に持って帰って来た。バスの中で待っているみなさんに前の方から順番にその実は回覧された。団栗とはまったく違った形をしていた。

種を輪切りにすると三角のおにぎりの格好とよく似ている。


ブナの種と殻
帰りに新幹線のなかで人吉のYさんから種をお借りして,写したもの。
大きく写そうとズームにしたら車体の揺れでボケてしまった。

 ブナの実は7年に一度種をたくさん落すといわれている。なぜかって? それはブナの種は栄養が豊富だから、毎年少しずつ種をおとしていたら、全部動物に食べられてしまう。

 そこで、ブナは一度に動物達が食べきれない程の種を落し残ったものが翌年発芽する仕組みになっているという。自然の摂理は素晴らしい。

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