やかんの音         

11月はじめ、例年より早く寒波がやってきた。

あわてて石油ファンヒーターを押入れから取り出した。このファンヒーター昨シーズンから調子が悪く、時々不完全燃焼のサインが出ていたが何とかだましながら使ってきた。

今年は、そのことはすっかり忘れ、油を入れ点火した。最初の一日は、どうにか順調に動いてくれた。

次の日から短時間で不燃のサインが出てスイッチ切れる。メーカーに電話して家に来てもらった。「バーナーが悪いようですね。もう10年前の製品で交換部品があるかどうか分かりません。あっても修理すると1万2千円ぐらいかかります。お客さんが望まれるなら修理しても構いませんが、いまは1万も出せば新しいのが買えます」

修理した後で、よく文句言われることがあるから念のために、と白髪のおじさんは低姿勢だった。

修理しないで買い替えることにした。出張点検費は会社の決まりで2400円ですが簡単な点検で請求しにくいが貰って帰らないと会社が喧しいので半分いただきます、と言って気の毒そうにして帰った。

これが10年も使ったものなのかと思うほど見た目には古い感じはしない。なんとなく粗大ゴミとして処分するのが粗末にしているようで心がとがめる。修理してとことん使い古すことを仕込まれた世代の性なのだろう。

すぐ経済比較で物事を決める現代は資源の有効利用、環境面からも考え直さないと地球は早い時期に終着駅に辿り着くかも知れない、とつい大袈裟なことを考えたりして・・・。

これまでと同じタイプのものを買うのか、別のものにするか迷った。

付加価値の高いものは便利だが、使い方がわからなくて最小の機能しか使っていないし、また複雑な構造になっているものほど故障が起こりやすく、それを修理するのに修理代が高くつき、また新しいものに替えるといった悪循環を避けたかった。

単純な構造の石油ストーブに決めた。芯を上げ下ろしいて点火したり消火したり、昔はマッチを使っていたが今は電池で電子着火になっているのが進歩したといえばいえないこともない。それくらいの単純なものである。

石油ストーブを選んだもう一つの理由は、家の中を見回るとすべてが電気に頼った生活をしている。もし災害などで電気が止まった時にどうするのか。いま使っている3個の暖房器はすべて電気がないと動かない。一つぐらいは脱電気のものにしておくのも良いではないか、と考えた。

使い始めて二週間が過ぎた。

室内の乾燥を防ぐつもりでやかんを載せた。時間が経つと「チリチリ、カタカタ・・・・」と音がする。長い間忘れていた懐かしい音である。この音を聴いていると外の寒さも忘れのんびりとした気分になる。

そうだそうだ。部屋に急須と湯飲みを持ち込み熱いお茶で一服するか。

今年の冬は、石油ストーブに買い換えたおかげで、楽しみが増えたような気分になっている。

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