04北アルプス山行記

燕岳〜大天井岳〜常念岳〜蝶ヶ岳縦走

燕岳へ

合戦小屋に着くとスイカの看板が下がっていた。

4、5人の女性がスイカに飛びついた。8等分にした一片が800円。値段の高低に関係なく喉を潤す最高の食べ物で、みんなニコニコしながら頬張っている。4時半に出発してから、おおよそ3時間半の登り尽くめの疲れをこのスイカで取り戻そうとしているようだ。

合戦小屋は、中房温泉登山口から燕岳までのほぼ中間になる。しかし、標高差でいえば三分の二は登ってきている。ここまで登って来る間に各人の今日の体調の良し悪しは判断がついた。ほぼ予定の時間で辿り着いたから全員快調とみて良さそうだ。

しかし、残念なことに天気はよくない。夜中に起きて空を見上げたら雲の切れ間に一つ星を見ただけだった。夜が明けても青空はなく高い雲が覆っている。谷間にはガスが発生しては消え去っていく。今日の天気情報は、午前中曇り、午後から雷雨の予想である。ゆっくりと長い休憩をとるわけにはいかない。先を急いだ。

燕山荘が見えるるところまで登ってきた。山荘は雲の流れに見え隠れしている。やはり山頂は視界が悪そうである。ここの辺りまで来ると森林限界は過ぎ視界はよいはずだがこの天気ではいたしかたない。

足元には背の低い植物が昨日の雨に濡れ、露珠を宿している。白、黄色、ムラサキと色とりどりの花が咲いているが花の名前は分からない。名前はあとで調べることにして、とりあえず写真に納めグループの後を追っかけた。

燕山荘ではわたしが着くのを全員が待っていた。そろったところでザックは山荘の広場に置いて燕岳へ出発した。

燕岳は北アルプスの中でも独特の景観を持つ山といわれている。白い砂礫の斜面にニョキニョキと立っている白い岩の群れ、そのたもとには緑のハイマツが彩りを添え日本庭園の原点そのものである。

また他の植物との共生を嫌って、砂礫地にしか生息しないコマクサのピンク色が白い斜面によくマッチしていた。

山頂を極め戻りかけるころから雨が降り出した。急いで山荘に戻り、ザックを解いてレインコートを着込んだ。

時刻は10時半、まだ午前中なのか?と意外な感じがした。それは朝4時半からの出発で既に6時間も過ぎていたからであろう。

これからの予定は今夜の宿泊地大天荘まであと4時間近く歩かなければならない。この雨模様で右手に見えるはずの穂高の連峰も雲の中、天気予報が的中した感じで2時間も早く雨が降り出したようである。

雨は諦めるとして、雷の発生だけはないよう願って歩き出した。

合戦小屋のスイカの看板
中房川の上流からこの小屋まで荷揚げ専用のケーブルが架かっている。
一切れ(8等分)800円だとスイカ1個は6,400円の計算になる。
高い安いは食べる人の気持ち次第。
森林限界が切れたころガスの中に見え隠れする燕山荘。ここからまだ1時間は充分かかった。
下を向いて歩いていると色とりどりの花が咲いていた。写真を撮るには時間がかかる。急いで撮ると手ぶれ、ピンぼけでものにならない。それが分かっていても行動を共にするためには急がざるを得ない。
団体行動の辛いところである。
燕山荘。
山岳書によると1921年の開業。現在のご主人は3代目だとか。このご主人の吹く「アルプスホルン」は小屋の名物だそうで一度聴いてみたいと思いながら通過した。
建て替わってまだ年月が経っていないのか色鮮やかでしゃれた建物だった。
燕山荘方向から見た燕岳。
ガスのために残念ながら鮮明でない。
白い砂礫の斜面とハイマツ緑が印象的であった。
砂礫の白い地面に張り付いて咲くコマクサの群落。

コマクサは高山植物の女王だそうである。
他の植物が生息できない過酷な環境で、他の植物との混生を嫌う自尊心が高い花だという。
地面に這うようにして写したら、沢カニが踊っているような風景に見えてきた。
こんな表現だと高山植物の女王さまのご機嫌を損ねるかな?
燕岳への路
手前より緑のハイマツ、白砂の斜面、花崗岩の群、白い斜面にはコマクサが滑り落ちないよう懸命にしがみ付いていた。

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