思いがけない積雪に苦戦
釈迦ガ岳〜岳滅鬼山縦走
山 行 日  2003・2・15

山   域  耶馬・日田・英彦山国定公園(英彦山山系)

行  程

JR諫早駅裏6:20 ⇒ JR西諫早駅前6:35 ⇒ 杷木インター8:40 ⇒ 9:30きり石トンネル南口9:45 ⇒ 10:30釈迦ガ岳10:35 ⇒ 湯谷越11:05 ⇒ 11:30昼食12:00 ⇒ 深倉越13:00 ⇒1 3:50岳滅鬼山14:00 ⇒ 岳滅鬼峠15:08 ⇒ 大南林道登山口15:28 ⇒ バス待機所16:20 ⇒ 深倉園地16:50 17:05しゃくなげ温泉17:45 ⇒ 杷木インター18:40 ⇒ JR諫早駅裏20:20


 寒波が通り過ぎ、1週間も暖かな天気が続いていた。もう山には積雪はないだろうと安心していた。ところが意外であった。低山であっても冬山は怖い。

きり石トンネル南口に9時30分に着く。きり石トンネルのある福岡県宝珠山村まで諫早を出発して3時間である。いつも思うことだが九州の西の果てに住んでいると山登りには不便である。

きり石トンネル南口

トンネル入口右に登山口がある。
登りはじめから釈迦ガ岳までほとんど急な坂で岩場が多い。

きょうの登山はここがスタートになる。周辺の山々を見渡しても積雪の気配はない。天気は快晴、雨具もアイゼンもザックの中にしまいこんだ。

トンネル口から釈迦ガ岳(844m)までのコースは、予想が外れ急坂続きで戸惑った。岩場の多い尾根道は北風がひっきりなしに吹き付け、身体が温まるひまはなかった。左の耳と頬は冷たさで感覚が鈍る。
 釈迦ガ岳の山頂に着いたのは10時30分。45分の間、急坂を上り詰めたことになる。山頂に立って、やっと視界が開けた。植林、自然林の中を登って来ただけに、開放感で一気に疲れも忘れる。

見晴しは最高、東西南北どちらを向いても景色を遮るものはない。東に、これから縦走する岳滅鬼山、山頂に神殿が聳える英彦山、北に障子岳、福智山、西に大日岳、古処山、遠く南に涌蓋山、と雄峰のオンパレードである。

釈迦ガ岳山頂から東方向を眺める。
遠望の左は英彦山で肉眼では山頂に神社が確認できた。
右の鋭角の山付近が岳滅鬼山になる。

この先の道程はまだ長い。5分間の休憩で次の目的地・岳滅鬼山へ急いだ。樹林帯の変化に乏しいアップダウンのコースはハードではないが気分的に滅入ってしまう。

きょうの山行記録は私が仰せつかっている。そのことを知っているKさん曰く「花もなければ眺めも良くない、こんなつまらない山行は感動がなく報告書が書きにくいですね」という。前を行くHさんと後から来るKさんに挟まれて私は登っていた。退屈しのぎとでも言おうか二人は老後の生活について年金が話題になっていた。そのやりとりを中間に挟まれ聞いていたので「二人の年金の話でも書いておきましょうか」と笑った。

南斜面を巻いて通る処まで来た。幸いにこの場所は視界が開けて眺めが良い。時間は11時30分。朝早い出発で5時ごろに朝飯を食べているので腹が減っていた。リーダーの判断で30時分の昼食タイムとなった。先ほどの北風の冷たさとは打って変わってポカポカ陽気である。良い場所を選んでくれたと感謝しながら食べる。

腹ごしらえをして12時ちょうど出発。縦走の方向は北東である。13時ごろになってだんだんと残雪の道に変わってきた。樹林帯の中で見晴らしは利かないが10センチ程度の雪道を歩くのは楽しい。

落葉したブナ林では、雪原に太陽が創り出したブナの樹形の影に見惚れながら歩いた。午前中の単調さとは違い、雪を見て、やはり山に来れば何らかの感動は味わえるものだと思った。

積雪したブナの林を歩く。
この付近はまだ10センチ程度の積雪で順調に歩いた。

釈迦ガ岳から岳滅鬼山までは距離にして5.2km。時間の経過とともに岳滅鬼山に近付いているのは確かだが積雪の深さがだんだんと深くなってくる。足を持ち上げ歩くためにスピードは遅くなってきた。

岳滅鬼山(1,0368m)に13時50分到着。先発の健脚パーテーは既にここを出発して岳滅鬼峠へ向った後だった。われわれのパーテーはスロー組8名である。先発パーテーは1時間前、岳滅鬼山に到着したことを携帯電話で知らせていた。われわれは予定より1時間遅れている。
 この山頂は樹木に遮られ視界は良くない。10分間の休憩で先を急いだ。山頂から岳滅鬼峠までは1.0
kmで30分の予定である。ザックに仕舞い込んだスパッツやアイゼンを取り出し装着しようかとも考えたが、あと1.0kmで峠に付くのであれば面倒だ、このまま歩こうとズボラしたのがいけなかった。

岳滅鬼山山頂
ここまでは積雪はあまり深いとは感じなかった。
写真の右側方向が岳滅鬼峠になる。
3分ぐらいで北東に面した急な岩場の難所があることも知らずに歩き出した。

下山にかかると北東に面した急勾配の岩場は、深い雪で埋もれていた。先発隊の残した足跡を頼りにロープ、鎖、ハシゴを掴み慎重に下りた。雪に隠れた岩場では足場を靴先で探し、時間をかけて一歩一歩下りた。

腰から下は雪の中、ズボンの裾と靴の間から雪が入り、雪が融け靴下に沁み込んでくる。3つのピークをこのような繰り返しで、峠に辿り着いたのは1時間後であった。関西大学14名の遭難は数日前に起こったばかり、そのことが頭をよぎった。途中で何回も、もし滑落して遭難でもしたらどうするかと不安で緊張した。

峠に辿り着いたとき、無事に下山できたと安堵した。しかし、ここからまだ大南林道までは雪道を30分は下らなければならない。気を引き締めて歩いた。
大南林道方面からの登山口
岳滅鬼山からこの登山口まで下りるのは必死であった。深い雪を掻き分け進むことで精一杯。
悪戦苦闘しているスナップ写真が欲しかった、と思うのはバスに乗り込んでからの欲と言うもの。
写真を撮る余裕はなかった。

林道の雪は足跡や車の踏み跡が凍り滑り易く、途中まで迎えに来てくれたバスに乗り込むまでに何人もの仲間が尻餅をついた。

林道を歩くこと1時間。あまり遅いのを見兼ねてバスはタイヤチェーンを付け途中まで登ってきてくれていた。予定を2時間オーバー、バスに乗り込んだのは16時20分であった。

大南林道を歩きとバスに乗り継いでおおよそ1時間で深倉園地に辿り着いた。
そこには渓谷を跨いで、男魂岩と女岩を結ぶ130mとも言われるしめ縄があった。

地元では日本一長い注連縄だと自慢しているという。
対岸の岩は女岩。

帰路に付いたバスの中で、みんな異口同音に「こんなに深い雪山を歩いたのは、初めてだった」と感想を述べあった。

緊張と不安から開放されたバスの中では、あの悪戦苦闘が満足感にかわり喜びが充満していた。 

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