馬の背を越えると急な坂道にさしかかる。表面の脆い岩肌には強風にたたきつけられた雪が凍りついていた。
 足元はガレ場で不安定だし、あるところでは積雪で滑り易かった。馬の背を渡る前に、中岳稜展望所でアイゼンをつけたので安心していたが、やはり5本爪の簡易アイゼンでは食い込みが浅く滑りやすかった。
 先頭を行くきょうのリーダーはヒマラヤ遠征の経験があり、手や耳に凍傷の後遺症を持っていると冬山装備の説明のついでに話してくれた。
 年齢は60なかばを超えた男性で小柄で細身、しかし顔立ちは精悍で気の強さが伝わってきた。しかし、25名の命を預るリーダーとして、きょうは慎重に慎重にゆっくり登っていく。
「みなさん、もうこの年代になれば何も急ぐことはないのです。ゆっくり登れば大抵の山には誰でも登れますよ。ゆっくり行きましょう」といった言葉を思い出しながら最後尾から付いて行った。

冬の火の山・阿蘇      次 へ