大台ケ原・大峰山紀行(4)


※ 背景画像は、八経ヶ岳から眺めた大普賢岳(左)行者還岳(手前中央)和佐又山(右)

行   程
5月21日  諫早〜大和上市(奈良県吉野郡大和上市・桜亭泊)
5月22日  大和上市〜大台ケ原(大台荘泊)
5月23日  大台ケ原〜和佐又山登山口(和佐又山ヒュッテ泊)ヒッチハイクで移動
5月24日  和佐又山登山口〜笙の窟〜大普賢岳〜七曜岳〜行者還小屋(小屋泊)
5月25日  行者還小屋〜一ノタワ避難小屋〜弁天の森〜弥山〜八経ヶ岳〜弥山小屋(泊)


 確かにこんなときには男女差がつく、男子が不利になるときはセクハラだと声高に叫ばない現実はおかしい。とは言いながらもそこは何とかうまく交渉するしかない。しかし、二人ともどう見ても口上手ではないことは承知している。

 5時前に今夜宿泊する大台荘に着く。入浴時間、食事の時間、部屋の道順などの説明を聞き部屋にはいった。部屋は個室から団体の大広間まで数段階に分かれている。眠ってしまえば同じことだからと一番料金が安い大広間を予約しておいた。

「今夜は、大広間は11名様です」と念を押されて部屋に入ってみると、もう7名の場所が確保してあった。私たちはその反対側の隅に陣取った。

 Kさんは急いで風呂に行った。風呂の時間は5時から6時までと7時から8時までになっている。6時から7時までが夕食時間である。

 カラスの行水は嫌いな私は夕食後にゆっくりはいろうと思っていたが、いまなら人も少ないし、ゆっくり湯船に浸かれるのではないかと思い直した。

 風呂にはKさんを含め3人が入っていた。二人は同室の仲間らしく世間話をしている。二人が出て行ったあと、「あの二人は明日朝ここから下山するような様子だった」とKさんは言う。「明日の朝食のとき、話のきっかけを見つけ交渉してみようか」とKさんはなかなか積極的である。

 夕食を終えて部屋に戻ってみると、7名は女性グループだった。

 丸く円陣を組んで話しが弾んでいる。それは私が寝込んでしまうまで続いていた。男性二人は隅っこで話すこともなく布団に寝転んでいると女性たちの話し声がいやでも聞こえてくる。

 山に来たときぐらい山の談議をすればよいものを、日常生活のあれやこれやを話し込み、まぁ良くも話題が尽きないもんだと思った。どうやらこのグループは神戸の人たちらしく、三宮だ、元町だ、垂水だ、須磨だと話の中に地名が出てきた。

 8時ごろ耳に栓をして眠りについた。

宿泊した大台荘

5月23日 雨のち曇り

 目が覚め時計を見るとまだ11時30分である。いつものことだが山小屋の夜は長い。二度目の目覚めは4時半、床を抜け用足しに出たついでに外に出て天気を確かめた。外は明るかった。強い降り方ではないが小雨が降っている。

 寝付かれないまま、我慢して床の中にもぐりこんでいたが6時に起きた。

 雨足は強くなっていた。気温が下がって寒い。セーターの代わりに雨着を取り出し羽織った。ロビーに行ってテレビを見た。天気予報では奈良南部は傘マークだが午後からは曇りになっている。

 7時になるのを待って食堂に行った。夕食から朝食までの時間が長くお腹が空いている。一番乗りであった。

 食事が終わるころ、風呂場で一緒だった二人がやって来た。二人は遠く離れたテーブルに座った。ここで初めて作戦の誤りに気付いた。われわれが遅く来て、二人が食べている隣に座り、話し掛けるきっかけをつくるべきだったと・・・。

 Kさんはロビーで彼たちがチェックアウトするのを待ち伏せしてヒッチハイクを申し込んでみると言いながらそのままロビーに行った。

 私は部屋に戻り荷造りをしていた。しばらくしてKさんは「だめだった」と笑いながら戻ってきた。初めからうまくいくとは思っていなかったが、スタートのつまずきで計画が甘いのではないかと不安になった。

 8時にチェックアウトして駐車場に出た。雨は降っている。まだ開店していない大台ケ原物産店の軒下にザックを置いて、駐車場を一巡してみた。広い駐車場に十五、六台停まっている。

 後ろのトランクを開け、持ち物の整理をしている車に近寄り声をかけた。

「おはようございます。雨になりましたね。これからどちらへ?」

 これから下山するのだと返事が返ってきた。さっそく、雨に降られて下山したいがバスの時間が午後4時で長すぎる。そこで乗せてくれる車を探しているところだ、と事情を話した。整理している手を休め60代の背の高い男性は、数秒考えていたが「そうですか、よいですよ」と快く承諾してくれた。

「あそこに居るのと、二人なんですが」「二人だったら乗れませんね」空席は一つしかないと気の毒そうに言った。礼を言ってその場を離れた。

 Kさんは別のところでアタックしている。

 時間が経つにつれ駐車場の車は人が乗り込み動き出した。しかし、空席のある車は見つからない。下から登ってきたワゴン車は私たちが立っている前で停まった。この雨の中これから山に登るわけでもあるまい。商品を納入にきた商用車ではないかと近寄り、Kさんが話しかけた。これから西大台コースを歩く予定だと中年の男性二人は準備をはじめた。一緒に西大台コースを歩くか、帰るまで待っていたら乗せてやっても構わない。と言ってくれた。もしそれまでに車が見つからなければお願いするからと言って別れた。

 物産店前の軒下に立っていると、同じ部屋に泊っていた女性グループが手を振ったり、頭を下げ会釈しながら通り過ぎた。雨衣を着て登山の出で立をしている。西大台コースの方に消えて行った。

 駐車場に来て1時間は過ぎた。もう9時である。

 下山する車はもうなさそうだ、昼頃に中年の二人が戻るのを頼りにするしかないと長期戦の構えに心は動いていた。

 下のほうからエンジンをふかして登って来る車の音がした。4WDのワゴン車だった。夫婦らしい二人が乗っている。広い駐車場を一周してわれわれの立っている前で停まり、女性はトイレに駆け込んだ。車は新潟県長岡のナンバーである。エンジンはかけたまま、運転している男性は降りてこない。女性がトイレから戻ってきた。Kさんが女性に近づき話しかけた。

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