霧のなかの大崩山(前編)      

    山   域  祖母傾国定公園内

    登 山 日  H14・4・28 AM 雨  PM くもり

    コ ー ス  (往路)和久塚コース (復路)坊主尾根コース

    参 加 者  9名  登山者7名


位置図

先輩達の話を総合すると、大崩山(1,643m)に登るには体力と経験が必要だと言う。

技術、経験、体力どれ一つとっても自信はないが技術と経験を積み重ねているうちに老いぼれて体力は衰えてくるのは目に見えている。

今回の山行チャンスを逃したら大崩山には登らずしまいで終わりそうな気がして、焦っている自分がわかった。

九州では難度・体力の点で一、二を争う山だと聞けばこの機会に自分の程度を確かめてみたい、またアケボノツツジの素晴らしさをこの目に納めておきたい、とこの二つの思いを満たすために少々無理かなと思いながらも参加することにした。

4月中旬の週間天気予報では予定の3日間は天気に恵まれると喜んでいた。しかし、予報は日にひに悪い方へと替わっていった。

4月27日 曇りのち雨

朝7時、諫早を出るときは曇りだった。しかし、祝子川キャンプ場についた15時には強い雨脚になっていた。

テント泊りを取りやめ、バンガローを交渉したがすでに満杯で断られ、北川町施設の研修所を紹介してもらった。これで雨に濡れながらのテント張り、炊事は逃れられた。

建物は比較的新しく体育館のような造りであるが炊事場を備えたもので自炊の宿泊には便利でありがたい。

外が雨では何もやることがない。さっそく炊事に取りかかり、5時前には夕食兼酒盛りになった。

日暮れになると徳島、福山、佐世保、北九州、ナンバーの車が乗り込み、20人近くに膨れあがり広い部屋はほぼ埋った。

それぞれのグループで食事をしながら話しが弾んでいる。わがグループは一足先にアルコールがまわり一際高い声で語りまた笑った。

今日のメンバーの中には南米のアコンカグア山(6959m)に登頂したKさん、Iさんの二人がいる。アルコールの濃度がますにつれ、一歩登って二歩後退するアリ地獄の坂の苦しみや高度障害の辛さ、寒さで鼻水がとめどなく流れてそれが凍りつく様子などを語ってくれた。

無事に下山して街の観光をしているとき、Kさんに出会うと必ず地元民が笑う。地元の人たちも肌は黒いがそれ以上にKさんは雪焼けで顔が黒く、白い部分はゴーグルの痕か残る目の縁の丸い二つの輪と鼻水が凍りついていた鼻のしたの二本線だけだったそうである。

このピエロのような顔立ちが地元民の笑いを誘ったのだとそのときの様子を表情たっぷりに面白おかしく話し、皆を笑わせた。

夜は更け、床につくと単調な雨だれの音を時どき蛙が鳴いて乱した。その繰り返しが心地よい子守唄になり夢の世界へと誘っていった。

4月28日 雨のち曇り

6時起床、7時出発である。

研修所を出るとき雨はまだ降り続いていた。朝方4時に目が覚めトイレに行ったついでに外に出て雨の強さを確かめた。小雨より少し強い降り方で昨夜から変わっていない感じである。その状態が出発する7時になっても変わらなかった。この雨もテレホンサービスの気象情報によると午後からはあがるということで期待が持てた。

屋内でいつものストレッチ体操をして車に乗り込み登山口に向ってたときには予定の7時を10分過ぎていた。


登山口のコース案内板
登山口のコース案内板
 

登山口付近には10台ばかりの車が駐車している。山に捕りつかれた人たちは天気に関係なく登り、またその数が多いのに感心した。

雨対策の準備を終わり、いよいよ一歩を踏み出した。時計は7時30分を指している。

いきなり石の多い登りでウォーミングアップの足慣らしというわけにはいかない。急な登りは長く感じたが時間にして5分ぐらいであった。あとは小さな沢をいくつか跨ぎ、木橋を渡り、登ったり下ったりの繰り返しが続いた。左下の方から水の流れる音が聞こえてきた。昨夜からの雨で水量が増した祝子川の流れである。

登り始めてから40分で大崩山荘に着いた。ここは無人の山小屋である。衣服調整とトイレを済ませ本番に備えての再点検をする。一同揃って記念撮影をしたあと出発。

和久塚コースの登山道は祝子川に沿って進んでいく。樹木が途絶え明るい河原に出たところに丸太橋が見えた。山荘を出てから30分が経っていた。

ここの河原からは小積ダキと和久塚が見上げられるそうだがガスがかかって何も見えない。丸太橋の下の流れは、石にぶっつかりながら飛沫をあげて下っている。

橋を渡る順番を待った。その間に渡る要領を観察した。丸太は直径50センチ、長さ15メートルぐらいで手すりのワイヤーも張ってあり安心して渡れそうである。


丸太橋を渡る

渡る順番がきた。足元を見ると丸太の巾は意外に小さい。それに頼りとするワイヤーはたるんでいて身体を預けると斜めになってしまう。用心のためのワイヤーでバランスは自分で取りながら渡るしかなかった。水面までの落差が人の背丈ほどで高所恐怖症を起こすまでには至らずにすんだ。

橋を渡り終えると鉄パイプのハシゴを登り、巨石の間を両手で突っ張り次の石へ大股で足を交わすなど難所続きである。再び沢伝いに木々の間を歩いていく。石が湿っているので油断すると危ない。

地形が急登に変わり岩のガレ場が長い間続いた後は崖になり、アルミのハシゴが掛けてある。ハシゴを登り終えると今度はロープを使って崖登りになる。気を休める暇はない。

登りはどこまでも続き、木の根やロープを頼りに息を弾ませながらゆっくりと高度を稼いだ。

袖ダキ分岐まできた。左へ進めば袖ダキ、右は大崩山。本当はここで到着するまでの時間を記録しなければならなかったが時計を見て記録する余裕はなかった。

ここまで来る間に、滑り、石の上ではバランスを崩し、自分の体調がいつもと違うのを感じていた。足の力が抜けた感じで足元が不安定になり横に倒れかかったり、つまづいたりすることが多くなってきた。

これは雨で濡れた道のせいばかりでないことは自分で納得できた。数日前から風邪気味で頭が重い感じがして、かがみ込んで心臓よりも頭を低くするとめまいがするときもあった。そのほかは日常の生活には支障なかった。

体力を使い緊張が長く続くとボデーブローが少しずつ効いて足にきているらしかった。この後、坊主尾根の急峻なハシゴ場でダメージ受けることになる。

依然として霧がかかっているが雨は小雨になっているようだ。晴天であれば左に登り大崩一番の眺めを楽しみたいところだが諦め、右のコースへ登っていく。ただ登ることだけに専念、雑念は沸かなかった。というより思考力が麻痺した状態だと表現した方が適切かもしれない。


ガスの中に浮かんできたアケボノツツジ

ぼんやりと霞んだ前方に淡紅色の花が浮かんだ。あれは確かにアケボノツツジである。今年は花時期が早く、もう見られないものと半分諦めていたときだけに疑いと喜びが重なった。

急にこれまでの辛苦が消え、生き還ったように元気がわいてきた。カメラを取り出しシャッターを押した。時計を見る余裕も出来ていた。11時である。

ここからまた元気を取り戻し登り始める。40分で上和久塚に着いた。これまでと同じような急登りに変わりはなかったが花に出会ったあとは何となく楽に登ってきたような気がする。

上和久塚まで来るとアケボノツツジはあちこちに咲いている。写真タイムを貰ってシャッターを押した。(つづく)

アケボノツツジ アケボノツツジ
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