開聞岳(922m・鹿児島県開聞町)      

     H13・12・8 パーティー9名

        行  程   

        正面登山口(905)⇒開聞岳山頂(11401220)⇒正面登山口(1420

人生は不思議なものである。趣味の持ちようでどうにでも変わる。

あと2年で40歳になるという時期に、鹿児島の指宿に転勤になった。そのころは仕事に脂が乗っていた時期で、昼は仕事に熱中し、夜は本場鹿児島焼酎の味を憶え、ほろ酔い機嫌で1日を過ごす生活を送っていた。

仕事柄、週に一度は薩摩半島をほぼ一周しなければならなった。指宿を出発して枕崎に向う途中に開聞岳は左手に美しい姿を見せてくれる。

指宿に赴任していたのは3年であるから、開聞岳の麓を通ったのは単純計算しても156回になる。そのころは開聞岳を眺めて美しい山だとは思っても、登ってみたいという気持は一度も起こらなかった。今思うとどうして登らなかったのか自分でも不思議でならない。

それから30年近くが経って、私の人生は変わった。現役を引退したあと、山登りを楽しみに暮らすようになった。

朝6時、テントから抜け出し空を見上げる。昨夜の夕焼けは素晴らしかったので今日は晴天だと思い込んでいた。しかし、空は雲で覆われていた。

ここ開聞岳山麓公園キャンプ場から見上げると、夜明け前で薄墨色の開聞岳は三角形の形をして目の前に立ちはだかっている。

山登りを始めてから、あの美しい開聞岳に一度は登っておきたいと思い続けてやっとこの日が来たのだ。山頂に登りついたころには晴れてくれるように願った。

朝食の準備をしている7時前、キャンプ場のそばにある駐車場に大型バスが着き、40名近くの登山者が下車したかと思うと一列になって登り始めた。夜中に走り今朝ついたのだろう。眠りながら移動して目覚めたらすぐ登山と、少々遠距離の山でも登れるような便利な時代である。

今日は地元山岳会のラリーグラスの二人が案内をしてくれる。約束の時間より少し遅れ9時に登山開始。

登り始めから洗堀されて地面より低い凹道が続いた。所によっては道が低く地面が頭より高い所もある。両壁は黒っぽい土がむき出しになっている。火山灰が堆積した地層で小さな石が混じり、いわゆるボラ土といわれているもので軽石が多く水はけのよい地層である。

この土を見ると懐かしい。指宿に勤務した間に、東洋欄の一種である尢磨E山川報歳を貰って育てていた。植え替えの時期にはこの土を篩いにかけて使ったものである。またサツマイモが美味しいのはこのボラ土が適当な保水と排水のよさを持っているからだといわれている。

開聞岳は独立峰でどの方向から見ても三角の姿をしている。登山道も他の山とは違って円錐の山を左巻き螺旋状に一周して山頂に登りつく珍しい山である。

正面登山口は北方向にあり、山頂でちょうど一周して北を背にして登り着くようになる。麓から山頂まで、アオキ、イヌビワ、モッコク、サカキ、モミ、ウバメガシなどの常緑広葉樹が多くほとんど樹林の中を歩き展望が開けるのは、途中、わずか四回ほどしかない。

はじめ大隈半島の突端・佐多岬や薩摩半島の先端長崎鼻は視界の右端に見えるが高度を上げるごとにその位置は左に移動し四回目には、左端になってしまう。七合目辺りでは南の海上に種子島、屋久島、硫黄島が見えるはずだったが時折陽射しが差し込む天気で遠望は利かなかった。

七合目付近から大きな溶岩が重なり合ったガレ場に変わる。大きな溶岩が重なり合ってできた仙人洞窟辺りでは、義経の八艘飛びの格好で石をまたいで登る。家族連れで登ってきた小学生達は身軽に飛び越え、見る間に通り過ぎた。

8合目辺りから岩場は険しくなりザイル、ハシゴを伝って登った。

このころバスツアーで先に登っていた集団が降りてくるのと出合った。挨拶を交わす中で広島から来たことがわかった。よく考えてみたら開聞岳までは長崎と広島は大差がない距離である。われわれは前の晩からテント泊りだから、もしかしたら広島のほうが交通の便はよいのだろう。

九合目になり北方向の雲の上に霧島連峰が見えた。きっと山頂ではもっと良く眺められるだろうと期待していたが、山頂に辿り着いたときには褐色のガスがたなびいてその姿は見られなかった。

山頂は多くの登山者で賑わっていた。途中追い越していった家族連れは賑やかに語り合いながら弁当を食べていた。

時計を見ると11時40分である。30分の休憩時間に、写真撮影、昼食をした。山頂の南の方は緩やかな尾根が伸びて南の海は見えない。西、北、東方向は

池田湖をはじめ、薩摩半島の山々、大隈半島の山並みがのんびりとした雰囲気で鎮座している。

知覧の辺りをお眺め、特攻基地から飛び立った若人のことを思い浮かべた。

祖国を振り返り振り返り、小さく遠ざかっていくこの開聞岳を目に焼き付けて別れを告げたに違いない。

2合目付近の展望台から見える長崎鼻。
すぐ上にかすかに見えるのが佐多岬半島
曇天で視界がはっきりせずに残念。
長崎鼻はこの画面では中央にあるが手前の樹木の陰になって見えなかったので、展望台の左端っこまで移動してカメラを右に向けて撮った。
7合目付近から見た長崎鼻。
上の写真は北の方向から東方向のを写したもので、この写真は南の方向から東方向を写したもの。
8合目付近から見た頴娃(えい)町の海岸線。画面の左端が枕崎市になる。
方向としては長崎鼻とは180度方向変換した位置で西を眺めている。
山頂の賑わい。
家族連れのハイカーが賑やかにはしゃぎ、違った意味での山の楽しさを味わった。
下山して次のキャンプ地に向う途中から見た開聞岳の雄姿。開聞岳は360度何処から眺めても同じ姿である。
ここ頴娃町の瀬平公園からの眺めは、白い海岸線と老松と優雅な稜線の曲線がマッチして最高である。

山汗記に戻る